脊髄損傷について

文責 川村

1.脊髄損傷とは
 脊髄を損傷すると、損傷部分から下には脳からの命令は届かなくなり、体の各部分からの情報も脳に届かなくなります。
 そのため脊髄を損傷すると体に麻痺がおこります。脊髄の損傷した部分が上になるほど麻痺する範囲が広範囲になり、麻痺した範囲は運動神経も知覚神経も効かなくなり、動かすことができなくなり、熱さや痛さを感じることもできなくなります。
 脊髄は脳と同じ中枢神経なので他の組織と違い、一度傷つくと二度と再生しません。
 そのため現在一度傷ついた脊髄を治療する方法はなく、脊髄を損傷してしまった患者は麻痺した体を抱えなければならなくなり車椅子での生活を余儀なくされます。
【参考】
夕刊 讀賣新聞 2001年(平成13年)2月2日(金曜日)
「骨のもと」から神経細胞
 
骨髄に含まれ、骨のもとになる「骨芽紬胞」から、再生の難しい神経細胞をほぼ100%の高効率で作り出すことに、慶応大医学部病理学教室(秦 順一教授)の研究グループが、マウスを使った実験で世界で初めて成功した。人間でも、この神経細胞を移植するなどの方法で臨床応用できれば、患者自身の骨髄を使うため拒絶反応の心配がなく、運動神経が調節できなくなるパーキンソン病や、事故による脊髄損傷治療などに活用できると期待される。
2.発生原因

 脊髄損傷は、医学的立場から言うと正しくは、ケガ(外傷)によって脊髄神経が損傷されたものをさしますが、一般には広く考えて、ケガ以外のいろんな病気によって起こったものも含めて取り扱っています。これらの発生原因について説明します。
【怪我による脊髄損傷】
 脊髄神経は、背中の硬い背骨の中を縦に長く走っているので、普段はあまりケガを受けないように防御されているわけですが、直立して歩くという人間の姿勢は、かえって背骨の弱さ作り出していることになります。あの重い頭をささえている首の骨、上半身の重みを受けている腰の骨は、以外にも上下からの圧カの時に大事な脊髄神経が切れて手足の麻痺(動きがなくなる)を起こすことになります。
 昔は、高い所から落ちたり、重い物が背中にあたるという労働災害事故により腰の神経が切れて、両足が動かなくなること(対麻痺または両下肢麻痺)が多かったものです。
 最近は、交通事故の増加によって、自動車の追突から首の骨が折れて、手足が動かなくなる(四肢麻痺)若い人たちが多くなっています。高校生の単車事故もよくあります。
 さらに、スポーツまたは学校体育のケガによるものも多く、跳び箱、トランポリン、柔道、ラグビー、水泳(飛び込み事故)などが主な原因となっています。
【病気によるもの】
 いろいろな病気から起こりますが、特にあげられるものとしては、脊髄腫瘍、スモン病、を含む脊髄炎などがあります。最近、中高年者にみられる頸部脊髄症は特に注意を要するものです。先天性のものとしては、二分脊椎が多く、昔流行したポリオはワクチンの普及によって非常に少なくなってきました。

3.症状
 神経が切れることによって起こる障害を一次障害と呼びます。
 手足が動かなくなるという運動麻痺、触ってもわからない、いたみも感じないという知覚障害が必ず起こります。さらに、内臓の働きも悪くなり、特に重要なことは、膀胱麻痺のため排尿障害が起こって種々の合併症がみられます。腸の働きも悪くなり便が出なくなることも問題です。
 これらの障害はやむを得ないものですが、問題として、何もしないで寝ていることによって起こる二次障害(医学用語で廃用性症候群)が発生することがあります。
 たとえぱ、関節の運動制限、筋力低下、褥療(床ずれ)などがあちこちに起こるので、二重、三重と障害が増加することになり、リハビリテーションの大きな支障となります。
 二次障害が起こらないようにすることが早期リハビリテーションの大きな目的であり、そのためには早くから運動する重要です。この運動として、残っている健全な体の部分を積極的に動かすことが大切です。

4.障害部位と残存機能
1)四肢麻痺
(1)C3レベル(第3頸髄節残存)
 C4以下が損傷されているので上肢の運動は全くなく完全四肢麻痺で、横隔膜は主にC4に支配されているので自発呼吸はなく、人工呼吸器によらなければ、生存不可能である。急性期にC3と思われていても、その後にC4に回復する者もある。
(2)C4レベル(第4頸髄節残存)
 急性期には人工呼吸器による管理呼吸が必要であるが、横隔膜の機能が残るので、回復期に入れぱ管理呼吸の必要はなくなる。しかし、胸部理学療法が必要ではある。可能な運動は、頸(くび)の運動のほか、肩甲骨(けんこうこつ)の挙げ下げのみで、日常生清動作はすべて、全介助となる。
(3)C5レベル(第5頸髄節残存)
 呼吸予備力は低下しているので、急性期は胸部理学療法を必要とする。腕神経叢(わんしんけいそう)の形成に関与する最初の頸髄レベルであるC5が残存しているので、上肢にある程度の運動性が見られる。三角筋、上腕二頭筋、回外筋の一部が機能し、肩関節の屈曲、外転、仲展、肘関節の届曲、前腕の回外が可能になるが、いまだ弱い。このレベルでは、寝返り、起き上がり、移乗動作は全介助であるが、自助具を使い、食事動作、歯磨き動作は可能になり、電動車椅子の運転は可能になる。
(4)C6レベル(第6頸髄節残存)
 C5レベルの機能が強くなり、これに橈側手根伸筋、円回内筋が一部動き、手関節の背届、前腕の回内がみられろがいまだ弱い。呼吸予備力はやはり低下している。寝返り、起き上がりはベッド柵を用い可能になる。自助其具用い、食事動作は自立し、寄りかかりの起坐で下腹部叩打による排尿動作が可能になり、更衣動作も一部またはすべて自立する。車椅子操作はハンドリムゴム巻きで可能になるが、移乗動作は介助を要する。
(5)C7レベル(第7頸髄節残存)
 C7が障害を免れれば、総指伸筋、手根屈筋、上腕三頭筋が機能し、肘関節の伸展、手関節の掌屈、手指伸展が可能になる。このレベル以下の損傷で起き上がり、移乗動作が自立でき、ベッド上、車椅子上のADLはほぼすべて自立する。手動式自動車の運転も可能になる。しかし、手指の伸展は可能であっても、屈曲、内外転は不能で、各種自助具、スプリントの使用が必要になる。
(6)C8レベル(第8頸髄節残存)
 手指の屈伸が可能であるが、手固有筋は不完全で手指の内外転、つまみ動作が障害され、手固有筋機能喪失肢位である驚手変形を来し、物を把持することは困難である。このレベル以下の障害は、lベッド上、車椅子上のADLはすべて自立する。
手動式自動車の運転も可能になる。
(7)T1レベル(第1胸髄節残存)
 T1までの障害を免れれば、上肢の機能はすべて正常で、対麻痺となる。
2)対麻痺
1)T1〜T6レベル
 深呼吸時の胸郭の動きによって判断する。正確には知覚検査を行い判定する。
(2)T7〜T12レベル
 上部腹筋の支配がT7〜T10、下部腹筋の支配がT11〜T12(L1)である。腹筋に触れながら患者に腹筋を収縮させ、臍(ヘそ)が上方に移動すれぱT7〜T10である。下部腹筋が収縮すればT11〜T12(L1)である。

(3)L1レベル
 腸腰筋がわずかにきいているのみでそれ以外の下肢筋は働かない。しかし、骨盤挙上筋群が機能するために長下肢装其十松葉杖での歩行の実用性が高くなる。
(4)L2レベル
 腸腰筋の機能は強くなるが、内転筋群の働きは弱い。リハピリテーションのゴールは、長下肢装具十松葉杖での歩行が実用的になる可能性は大きいが、一般的には車椅子自立となる。手動式自動車運転可能。
(5)L3レベル
 股関節の屈曲、内転は強くなり、外閉鎖筋により股関節の外旋、大腿四頭筋による膝伸展が可能になる。このレベルで短下肢装具+松葉杖による歩行が可能になる。
(6)L4レベル
 大腿四頭筋の筋力は正常になり、前脛骨筋の機能で足関節の背屈、内反が可能になるが底屈筋(下腿三頭筋)の働きはなく、足関節の支持性はない。歩行には、長靴+杖を要する。
(7)L5レベル
 中殿筋の働きで股関節外転が可能になり、内側膝屈筋群が機能して膝関節の屈曲が可能になる。足関節背屈筋(前脛骨筋)は強くなるが、底屈筋(下腿三頭筋)の
機能はないので腫足変形を来す。足趾の屈伸は可能になる。歩行には、長靴+杖を必要とする。
(8)Slレベル
 大殿筋により股関節伸展が、下腿二頭筋により足関節底屈がかのうになり、独立歩行可能になるが、つま先立ちは不能である。
(9)S2レベル
 下肢機能は完全になる。
く引用文献・インターネット>
1「脊髄損傷T 治療と管理」 編集:署倉博光・岩谷カ・土肥信之

                   出版:医歯薬出版株式会社1990
2「脊髄損傷マガジン」 http://www.nt.sakura.ne.jp/~kabuto/sekizui/kaisetu.htm
3「夢旅人の部屋」 http://nagoya.cool.ne.jp/nagoya/2801/intro.htm