分科会2 『大学施設および肢体不自由学生問題について考える会』報告内容


川崎医療福祉大学の沿革


川崎医療福祉大学医療福祉学部3年  光岡 芳宏

 

 川崎医療福祉大学は岡山県倉敷市にある。開校10年という比較的新しい大学である。
 校舎は主に本館棟と講義棟に分かれている。本館棟は10階建てであり、事務室・学生ラウンジ図書館などの施設および各学科の実験室・実習室、そして教授等の研究室がある。講義棟は4階建てであり、通常の講義に使われる講義室がある。本館棟・講義棟とも車椅子、視覚障害者対応のエレベータが完備されており、上下移動に関して問題はないと思われる。また障害者用トイレは各階に最低2つは設けられており、廊下の幅も広く、段差もほとんどない。障害者優先駐車場も用意されている。

<学内施設について>
 施設・設備について全体を通してみると障害学生にとって、非常に学びやすい環境が整っているといえる。他大学や公共機関と比べてみても、あきらかにバリアフリーの考え方に基づいて設計されている大学だといえる。しかし残念ながら、細部まで配慮されていない現状がある。
 まず挙げられるのは、大学内にある扉である。人の出入りが頻繁な所は自動ドアになっているが、事務室の扉をはじめ、研究室・講義室等の出入口はすべて引き戸となっている。特に講義室の扉は重くて大きい。肢体不自由の学生にとっては不便である。
 次は本館棟と講義棟の移動についてである。通常は中庭(プラザ)を通って移動するのであるが、雨が降ったときは外を通ることになるので、一般の学生は渡り廊下を利用することになる。本館棟と講義棟を結ぶ渡り廊下は3階と4階にあるが、3階の廊下はアーケード状となっているので、横からの雨で地面は濡れている。そうすると車椅子で移動できるのは4階の廊下のみとなる。想像以上に一箇所しかないことが非常に不便なのである。
 また、雨の日というのは車椅子を使用している者にしては普段よりも注意が必要だろう。校内の廊下も雨などで濡れてしまうと滑りやすい。最近は水分があっても滑りにくい素材の物が開発されているので、特に外と内の出入口の辺りにだけでも配慮が必要だと日々思っている。
 もうひとつ、雨の場合に不便だと感じることがある。それは駐車場から大学内までの移動のこと。前に紹介したように、大学には障害者優先駐車場が設置されており、駐車している所には屋根があるので、車の乗り入れで濡れることは少ない。しかしそこから大学に入るまでには完全な雨よけがないため、大きな水溜りを通らなければならいことが度々あり、車椅子のタイヤ自体も濡れることになるので、服までその被害にあってしまう。我慢できないことではないが、「あと少し考えれば」という気持ちが生じてしまい、もし改善する機会があるなら見落とさないで欲しい事項である。

<講義について>
 次に大学のメインである講義を受ける上でのことについて紹介する。基本的には講義棟の講義室を使用する。出入口は残念ながら開き戸であるため、荷物を持っていたりすると開けることは難しいので、友達に手伝ってもらうことが多い。講義棟の講義室は200〜300人ほど入る階段教室である。「階段」という言葉からも想像できるが、車椅子を始めとして障害を持っている人には不快な教室である。大人数に対応するため、前方(黒板)から後方に向かって階段状に座席が設置されてある。車椅子だと自由にこの階段を移動することができないので、いつも一番前の端で講義を受けている。この場合は正直言ってよい場所ではない。黒板がすぐ近くにあるため反対側の文字は見難く、スクリーン等を用いる場合は首が疲れることもある。講義に集中することはできるが、やはり友達と後ろの方で講義を受けたいと思うことがあることも分かってもらいたい。

<図書館>
 大学の施設の中で最もよく利用すると言えるだろう、図書館について考えてみる。図書館の出入口は人の出入りが多い所であるから自動ドアになっている。車椅子で入るとまず気付くのは床の状態である。図書館の床はフローリングではなく、じゅうたんになっているので、車椅子はタイヤをとられてしまい動きづらい。また本棚は高い位置まであり、上段にあるような書物を探すのも不便であるし、実際に取ろうとしても不可能であるので、友達や職員の方の助けが必要である。図書館内にある学習用の机は障害者用のものが2〜3個用意されているが既製品ということもあって私には高さが合わず、他の一般用の机が満席でない限り利用することはない。せめて調節可能なものであれば障害学生のニーズに答えることができると思う。
 このように私の大学の図書館は、どちらかと言えば使いにくい施設である。学生にとって図書館は重要な学習施設であると同時に、情報の入手には欠かせない場所でもある。従って、図書館での障害学生と一般学生の使用上の不平等はあってはならないと考える。

<履修上の問題について>
 履修上の問題であるが、基本的には入学を希望する時点で大学側と事前に協力する必要がある。この時点で大学は、障害学生が希望する学科に所属できるかどうかを判断し、受験可能かどうかを決定するということである。医療福祉の分野を学ぶ大学であるため、受験や現場への実習が多い。身体理由で一般学生と全く同じ内容をこなすことができない場合もあるが、本人と担当教員との話し合いを行い、可能な範囲で学習に取り組んでいる。
 大学側の方針としては、「障害の種類によってこの学科に所属することは出来ない」と、決めているのではないということである。「本人と直接会い、本人の希望と教務課との協議を行った上で、履修できると判断すれば、後は本人の努力次第である」というものである。
 具体的に言えば、私は医療福祉学科に所属しているが、一般教養の時にあった体育の講義は出来ないこともあったため、自分で出来ることを見つけてしていた。もちろん、みんなと一緒にできることもあったので、特に困るといった経験はしていない。実習は、介護をすることは難しいが、事務的な処理などを中心的に行う、といったように大学側にも配慮してもらって、実習先の施設と連絡も取れている。特に履修上で問題となることは少ないので、まずは自分の希望を伝えた上で改善できる点、妥協する点を見つける事である。

<通学問題>
 通学についてであるが、私は自家用車で通っている。倉敷市内に自宅があり、通学時間は約30分である。大学の駐車場は有料である。一般学生も障害学生も変わらない。自家用車で通学しない人の場合は、JRを利用することになる。最寄りのJRの駅から大学まで歩いて約15分。大部分の学生は自転車で通学している。私も大学から駅まで行くことがあるが道路の状態が良くない。道幅が狭い上に凸凹がある。さらに、交通量も多く、車道と歩道の区別がないので、慣れてない人にとっては恐怖感を覚えると思う。
 自動車の免許を取る以前に、私もJRを利用して通学しようと考えたが、様々な障害があり結局実現しなかった。まず、一番の障害となったのは「階段」である。大学側のJR駅には、エスカレータが設置されていたので大丈夫であったのだが、自宅側の駅には階段しかなかった。駅員の方と話をすると、「単発的なもの(旅行等)なら対応することができるが、継続的になると人手の問題もあり難しい」と言われた。そして、朝の通勤・通学ラッシュと重なってしまうと、「安全の保障が出来ない」と断られた。この様な経験は今までにも何度も経験している。公共交通機関を利用するということは、乗車する所と下車する所がある。障害を持っている人にとっては、そのどちらか一方でも利用不可能となると、結果的に移動手段としては使えないということになる。また、利用人数の多い主要な駅も改築等を行うことによって対応している。しかし、すべての駅が利用できる状態ではない。
 利用できない駅を使わなければならい障害者は「運が悪かった」ではすまされるのだろうか。他の方法を探さなければならないのだろうか。通学をすることを考えることによって、現在の社会の障害に対する知識や、バリアフリー化の浸透状況を知ることになった。

<日常生活の中で〜ATM・コピー機〜>
 日常生活について考えると不便だと思っているのはATMである。大学内や近くの店にも設置されている。だが、大部分のATMは高い位置に画面や操作ボタンがあるので、車椅子にとって非常に使いづらい。画面を確認するために、体を持ち上げてみなければならず、腕に筋力のない人はさらに使いにくいものだと思う。
 同じようなことがコピー機についても言える。コピー機の操作画面や原稿を置く場所も高い位置にある。多くの書物をコピーしようと、他の人の倍くらいの時間がかかってしまう。コピー待ちの人が後ろに並ぶようなことになると、焦りが出てしまい、心理的苦痛を伴う。
 大学周辺のスーパーや飲食店等のお店は、入るのが難しいところが多いが、障害者対応は経験しているので気軽に店員の人に頼むことができる。
 川崎医療福祉大学は福祉分野を学ぶ大学であることからも、障害をもつ人には学びやすい環境にある。もちろん、細かい点で検討・改善しなければならない箇所もあるが、施設・設備等のハード面に関しては対応できていると言える。

<今後の課題>
 今後取り組まなければならないのは、「心のバリアフリー」すなわち障害者への意識変化だと思う。設備の改善や、配慮方法を考えることは、障害を持っていない人が持っている人の立場に立って判断することである。どれだけ相手の立場で物事を考えられるかが、これからの大学の方向を決めるだろう。
 一人の障害者として大学に伝えるならば、「障害学生への本当の支援というものは、障害者専用の場所を設置する、特別な配慮を行うことに執着するのではなく、その個人の『自由(選択と決定)』を確保することである」と言いたい。

 

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