12月3日 日本福祉大学 シンポジウムSTEP 報告内容


「日本福祉大学における障害学生の受け入れと支援の取り組み」

 

日本福祉大学 社会福祉学部第1部社会福祉学科4年  新井 寛

 

はじめに
  本学は1953年創立以来、受験において障害を理由としたいかなる制限も設けず、入学試験を合格した学生はすべて入学を認めてきた。したがって、いつも学生が在学しており、受験さえ認められない大学が多い当時から相対的に重度な障害学生を数多く受け入れてきた。98年4月、専用の部屋と常設窓口、職員を配置した大学付置機関の「障害学生支援センター」を設置し、受験相談から卒業までの全ての学生生活に対応できる支援体制の整備を目指している。こうした付置機関の設置は、わが国の大学では初めてのことであろう。本学の障害学生受け入れと施策の経過、今後の課題等について紹介する。

1.2000年現在の障害学生の状況
 3学部(社会福祉・経済・情報社会科学)、大学院2研究科の約6636名のうち、障害学生は93名である。内訳は、視覚障害7名、聴覚障害24名、肢体不自由46名、内部疾患16名である。ここ数年の経過は総数で80名前後で推移し、聴覚障害が減少し、肢体不自由と高度難聴が増加し、特に日常生活の介助を要する肢体不自由が急増している。この他、肢体障害、片耳難聴、弱視等の学生は相当数見受けられるが、生活や勉学に特段の支障がないものと思われる。

2.障害学生の受け入れ=入学試験の対応
  本学の入試には、障害者特別枠も障害者用の別試験の制度も設けていない。全て通常の入試(筆記試験、一部面接)を一般の受験者と同じ試験を受けることになる。しかし、障害によって別の配慮が必要な場合は、受験者が出願時に「受験配慮希望カード」を提出し、個別に相談を行 い、その内容に応じて可能な限りの配慮を行うこととしている。これまでの配慮事例を示すと、点字出題と点字解答(時間延長は1.5倍まで)、問題・解答用紙の拡大、ワープロ使用、テープ録音による口述解答(時間延長は1.5倍まで)、席の位置指定、必要な筆記補助具、拡大鏡の使用などであった。別室受験の必要な場合は本学受験会場に限られるが、その他実施可能な配慮は地方試験場でも実施している。合否判定に障害の有無など一切行なわない。合格決定の後、大学と面接を行なうが、大学として受け入れの準備をするためと、本人が勉学条件や学生生活について実状を把握し入学後の生活設計を立てていくためのものであり、希望があれば在学生の障害学生を紹介して良きアドバイスが得られるようにしている。

3.障害学生への施策の経過
(1) 創立1953年〜1960年代まで:「学生、教職員の個人的支援・相互援助」の時期」
 創立以来、比較的重度な肢体不自由、難聴等の学生を受け入れている。とはいえ大学の基本姿勢は『十分な条件はありませんが、これで良ければおいでください。一緒に問題を考えていく姿勢でおります』というものであった。この時期は社会福祉学部のみの小規模で家族的な雰囲気の中で、学生友人のサポートと教職員の個人的な配慮で対応していた時期であり、施設設備の改善なども63年に階段手すりを設置したのみである。

(2) 1970年代:大学、学生が意識的な取り組みを開始する時期
 この時期は、全盲・身障1級・高度難聴などにより重度な学生が入学を希望するようになり、従来の相互援助では対応しきれなくなってきた。全盲学生の受験希望に対応して、大学は70年「身障入試特別委員会」を設置し調査研究の後に、点字受験、時間延長、別室受験などの特別入試体制を発足させ、さらに障害者体育クラス、定期試験の特別配慮を実施し、点字図書の整備等に取り組み始める。学生は73年に自治会の下に「学内障害者の勉学・生活条件を守り発展させる会(略称・学障会)」を発足させ、難聴者用のループアンテナ、身障者トイレ、スロープ設置を要求し、それぞれ75年76年に実現している。

(3) 1980年代:施設・設備の改善(バリアフリー化)を推進する時期
 大学移転に向けて、80年に障害学生実態調査を行い障害学生の声を反映させた施設設計を策定し、身障トイレ,エレベーター、ループアンテナ、階段教室床の完全スロープ化など当時考え得る最大限の配慮を取り入れたキャンパスとなった。83年の移転後は、保障機器(立体コピー機、音声ワープロ、点字ワープロ、シルバーホーン、車椅子用公衆電話など)の整備がなされ、聴覚障害者の英語クラスの設置、図書館のリーディングサービスが開始されている。この時期は、受け入れ体制が相対的に整っていることもあり、さらに障害学生が増え、(社会福祉学部、大学院、経済学部、女子短期大学部で約5千名)130名を超えるようになった。この時期、重度者はまだ少数であり、その学生生活は多くの友人や学生ボランティアが支えている実態にあった。

(4) 1991年〜1997年:総合的な障害学生支援施策を構築するための模索の時期
 この時期、他大学の受け入れが進んだためか障害学生数は100名を切るようになったが、より重度で個別配慮の必要な障害学生の比率は増大してきた。また、障害学生への支援の得やすい社会福祉学部以外の経済学部、情報社会科学部にも重度の障害学生が入学するようになり、これまでのバリアフリー化、保障機器の整備に加えて、学生生活や修学支援を含めた総合的な対策が求められるようになってきた。92年、教授会は「障害学生問題特別委員会」を設置し、施設整備の改善に加え、障害学生個人へのサポート体制を整備する必要性を提言した。それを受け、大学は93年度から常設委員会「障害学生の勉学・生活改善委員会(略称、障害学生委員会)」(学生部所轄、教授会、教務課、図書館、就職課、施設管理課などで構成、95年度から大学評議会所轄)を発足させ、@施設、設備、保障機器の改善・充実、A講義、オリエンテーションの障害学生配慮の改善、B障害学生を支えるボランティア体制の充実、C(阪神大震災以後)障害学生の安全対策、を施策の柱として活動を進めることとなった。先ず「障害学生懇談会」を定期開催して障害学生の要望を聴き取り、障害学生と合同の「施設設備点検調査」を定例化し、公衆ファクシミリ、身障トイレのウォシュレット化、研究室の点字表示、エレベーター音声ガイド、避難指示灯等の設置を実施した。講義・オリエンテーションの改善では、英語テキストの点訳、オリエンテーションに手話通訳を配置し、学生サークルの協力を得て講義レジュメ点訳、ビデオ教材字幕付けに着手した。さらに、障害学生の学習上の特別な出費の援助のための「障害学生奨学金」制度を発足させた。ボランティア体制の整備では、「ボランティア講座(要約筆記、ノートテーク、身障者介助)」を開始し、手話サークルなどの協力で、入学直後の手話通訳、ガイドヘルプ、要約筆記などの「ボランティア派遣」に着手した。こうした施策について、新入生の障害学生に「障害をもつ学生のために−キャンパスガイド−」(40頁)を作成配布し「障害学生オリエンテーション」を実施し、また一般学生、新任教職員に対してオリエンテーションを実施して理解と協力を得られるようにしている。一方、93年度から、大学と障害学生、関係学生サークル等が共催で「連続講座−障害学生のサポートシステムを考える」を開催して報告書を配布し、障害学生の抱える問題を広く全学に知らせ、総合的な支援体制の在り方を論議している。この「連続講座」において学生からサポートシステムの具体案が提案されている。96年障害学生委員会は、大学評議会に対して「障害学生支援センター構想」を提起するに至った。

(5) 1998年以降:「障害学生支援センター」の設立、相談・支援の恒常的活動の開始
  これまでの実績を踏まえ、相談窓口と手話のできる嘱託職員を配置して「障害学生支援センター」が大学の付置機関として設置された。これまで積み上げてきたオリエンテーション、講座や懇談会、就職相談、奨学金制度等を発展させ、新たに、障害学生の勉学を支える「派遣ボランティア登録制度」を立ち上げ、活動に応じて奨学金を給付する「ボランティア奨学金制度」を予算化し実施に移した。また学生と共同で他大学の障害学生受入状況調査に取り組み、昨年秋に調査報告会を開催した。さらに、講義への手話通訳の導入と専門手話の開発、ゼミへの手話導入等の研究開発に着手している。

4.今後の課題
 障害学生支援センターとして、障害学生への総合的な支援への一歩を踏み出した。しかし、障害学生の多くは学外の日常生活や通学等に多くの困難を抱えており、それへの支援要望も強くだされている。しかし、現状ではキャンパス内の勉学・生活に範囲を限らざるをえない。修学上の支援においても、実習、インターンシップや海外研修プログラム等のキャンパス外の学修保障は個別ケースで相談援助しているが、これらへの本格的な支援体制の構築は当面する重大課題である。ボランティアの派遣制度や奨励金制度が、学生を受身にすることのないように、「障害学生とともに」発展する活動を目指して学生中心に据えた共同の取り組みが求められているといえる。そして、障害学生は単にサービスを受ける人ではなく、支援する多くの学生たちと共に障害者が抱える問題を学ぶ中心的な役割を発揮したい。大学としては、学生と地域関係機関とも協力関係を強め合い、地域における障害者支援システムの開発など、高等教育機関に相応しい取り組みを展開していく役割が求められている。

【付記】2000年現在の障害学生支援センターを中心に実施している障害学生支援活動
  これらは「支援センター」だけでなく学生諸機関と学生たちとが協同で築いてきたものである。
◇ 施設・設備の改善
〈施設調査の実施、ループアンテナ、障害者トイレ増設とウォシュレット化、教室の車椅子
席増設、エレベーターの音声案内、パトライト設置、自動ドアの増設、点字ブロックの点検〉
◇ 情報保障機器の整備
〈拡大読書機、立体コピー、音声ワープロ、点字ワープロ公衆FAX、車椅子用公衆電話、
FM補聴器の貸与、車椅子用コピー機〉
◇ 安全対策
〈フラッシュライト、聴覚障害学生全員にポケットベル貸与、車椅子学生の1階教室への配
置換え、車椅子・全盲学生の避難訓練〉
◇ 講義などの配置
〈障害者スポーツ研究・聴覚障害者英語クラスの開設、定期試験の配置、外国語テキストの
点訳、講義・ゼミへの手話通訳導入(試行)〉
◇ 情報の保障
〈オリエンテーションの手話通訳、障害学生オリエンテーション、「障害学生のためのキャ
ンパスガイド」誌、新任教員オリエンテーション、「支援センターだより」紙の発行〉
◇ 学生生活への援助
〈障害者専用の駐車場、障害学生奨学金の給付、障害者の健診(車椅子のX線検診の実施)、
障害学生就職ガイダンスの実施、障害者向きの下宿紹介〉
◇ 障害学生への理解を促進する取り組み
〈講座の開催、新入生への支援センター・障害学生からのガイダンス、他大学からの相談・
問い合わせ「障害学生支援センター年報」の発行〉
◇ 障害学生へのボランティア派遣
〈ボランティアの登録(ノートテイク、手話通訳ビデオ教材字幕つけ、教材点訳、ガイドヘ
ルプ:250名)、ボランティアの調整・派遣、「ボランティア講座」開催、ボランティア交流
会・センター利用者懇談会の開催〉
◇ 奨学金、奨励金の給付
〈障害学生奨学金、障害学生支援ボランティア奨励金〉
◇ 研究開発、講義等の活動
〈講義の専門用語の手話開発(愛知県聴覚障害者協会との共同研究)「東海地域の高等教育
機関におけるボランティア活動に関する調査研究(98年度、99年度)」、講義「ボランティ
ア論(社会福祉学部、経済学部)」にゲスト講師、付属高校特設授業にゲスト講師〉
  
■ 参考文献
「プロセス=日本福祉大学障害学生支援センター開設記念誌」(98年11月)

 

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