ようこそ絵本と児童文学へのいざない秋野勝紀のコラム絵本ガイド

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『いつでも会える』

菊田まりこ・作
学習研究社(1998年)

 岡田真由美(学生・02年度卒)による評論

 作家の菊田まりこさんは、グラフィックデザイナー、イラストレーターとしてポストカード、ステーショナリー、 絵本など幅広い分野で活躍している。『いつでも会える』は、絵本デビュー作である。 この作品は世界400以上がエントリーするイタリア・ボローニャ児童図書展のボローニャ児童賞で、1999年度特別賞を受賞したのである。
 すでに120万部を突破した、話題のベストセラー絵本である。子どもだけにとどまらず、むしろ若い世代に受け入れられている。 絵本を読むことによって、純粋な心に触れ、切なくて暖かい気持ちになり、心を癒されるように感じるからだ。 また化粧品メーカーのCMの中で、女優がこの絵本を読んでいる場面があり、その人気がうかがえると同時に、 この絵本の浸透に拍車をかけたと思われる。
 絵本の絵が、そのままポスターになって額入れされ売られており、絵の人気の高さも感じさせる。また絵本のビデオも発売されている。 心を癒すようなピアノの音楽と静かな語りによって、視覚的だけでなく、聴覚的にも心に訴えかけてくる。絵本とは違った良さはあるが、 やはり自分の感じるままにページをめくっていけ、自分でキャラクターのイメージをふくらませられるという意味では、やはり絵本がよい。
 絵本は、人間の生と死をテーマにしたものである。犬のシロの視点でかかれている。シロと飼い主のみきちゃんしか登場しない。 それだけにシロとみきちゃんのつながりは強く、シロの世界はみきちゃんがすべてで、絆で結ばれているというように感じられる。
 その大切なみきちゃんが、この世を去ってしまう。シロは、何故突然いなくなってしまったのか理解することができず、 いろいろな所を捜し回る。そのひたむきさと幼さに心をうたれる。そして、心に聞こえるなつかしいみきちゃんの声で、 シロは心の中でいつでもみきちゃんに会えると知り、元気を取り戻す。
 なくなった人は,いつまでも心の中に生きているという話はよく耳にはするけれど、なぜこの絵本はこんなにも切なくさせ、 心が暖まるのだろうか。
 その理由は一つは、やはり絵やページなどの効果的な使い方にある。絵も文字もすべて筆ペンで書かれており、暖かい感じがする。 使われている色は、黄色だけでとってもすっきりしていて統一感があり、すんなりとページをめくっていけ、心に入ってくる。 そして落ち着いた暖色系である黄色はとても効果的に使われている。アクセントになっていたり、柔らかな丸い黄色で、 シロとみきちゃんを囲んだりしていると、楽しいかもし出し、暖かい感じがする。
 絵本は、シロの視点で話が進んでいくけれど、終わりの方のみきちゃんの声のページだけは、 その他のページが黄色はアクセントのようなものだったのが、黄色一色のページで白い色になっている。これによって、 シロの言葉とみきちゃんの言葉というのが、分かりやすくなっている。そしてシロの心の中のことだというイメージがわきやすい。
 ページの使い方では、シロがみきちゃんを捜し回る所や、回想シーンなどは見開き1ページ全体に何パターンもの絵が書かれていて、 とてもたくさん捜したという感じや、いろいろな楽しい思い出があるのだという広がりも感じさせる。
 2つ目の理由は、絵本に登場するのが、犬と女の子というところにあるのではないだろうか。幼い女の子の突然死、 しかし犬は死というものが理解できなくて女の子を必死で捜し回る。女の子によせる純粋な思いや、 会いたいというひたむきな姿に心をうたれる。そして心の中に出てきた女の子のやさしい言葉と、 その言葉によって現実の世界ではもう会えないけれど、心の中でいつでも会えるし、何も変わらないと喜ぶ犬の様子に安心し、 心暖まる感じがするのだ。


(2001年9月)